本作における戦慄の真相と最大のトリック、それは「一連の殺人事件を実行していた犯人は、主人公である飛流想一自身だった」という衝撃の結末です。外部から忍び寄る見えない脅迫者に怯えていた想一自身が、実は解離性同一性障害(多重人格)を患っており、無意識のうちに凶行を重ねていた事実が明かされます。
本作の妙味は、いわゆる「信頼できない語り手(叙述トリック)」を極限まで突き詰めた心理描写にあります。想一の視点で描かれる恐怖や疑心暗鬼は読者に完全な感情移入を促しますが、作中で描写される不可解な違和感――鏡恐怖症、時間感覚の欠落、奇妙に配置されたマネキン人形――のすべてが、彼の精神の崩壊と別人格の存在を指し示す緻密な伏線となっていました。
終盤における謎解きの場面では、友人として登場していた島田潔の手紙によって冷徹な真実が突きつけられます。物理的な密室トリックではなく、人間の深層心理と認識の歪みを館の構造と融合させたこの結末は、シリーズ屈指の異色作として今なお考察が絶えません。