2010年代、中尾の怪演が再び映画ファンを熱狂させたのが、北野武監督による『アウトレイジ』シリーズだった。暴力と裏切りが渦巻くヤクザ映画の世界で、中尾が演じた山王会幹部・富田は、策謀を巡らせながらも時代の波に呑まれていく老獪なヤクザの哀愁と凄みを完璧に体現していた。
北野組の現場において、中尾は過剰な怒号や大げさなアクションを一切排した。視線のわずかな揺らぎ、煙草を燻らす指先の緊張感、沈黙の間合いだけで男の野心と恐怖を表現してみせたのだ。この極限まで削ぎ落とされた「引き算の演技」こそ、百戦錬磨のベテランが辿り着いた境地だった。暴力の狂騒の中で誰よりも静かに、しかし誰よりも恐ろしく佇む姿は、バイオレンス映画におけるひとつの到達点として語り継がれている。