ちあきなおみの凄みは、ジャンルという枠組を軽々と凌駕する歌唱力と、短編映画を一幕観たかのような重厚な世界観にある。1972年にリリースされた『喝采』は、ドラマチックな歌詞と劇的なメロディラインで日本レコード大賞を受賞。日本中を熱狂させ、歌謡曲の歴史に燦然と輝く名曲となった。
しかし、彼女の真骨頂は『喝采』の成功にとどまらない。水原弘の楽曲をカバーした『黄昏のビギン』では、静けさの中に溢れ出る情念と哀愁を低音のウィスパーボイスで表現。演歌やブルース、ジャズにいたるまで、自らの血肉へと昇華させた歌唱技術は、同業者であるプロのミュージシャンからも「悪魔的な凄み」と称賛された。
日本コロムビア時代に築き上げた黄金期の音源から、テイチクエンタテインメント時代に遺した成熟した名唱の数々まで、レコード会社を跨いで生み出された作品群は、日本のポピュラー音楽史上において極めて高い芸術性を誇る。言葉の一音一音に魂を吹き込む彼女のボーカルスタイルは、今なお後進のアーティストたちに多大な影響を与え続けている。