「赤い洗面器の男」の起源をめぐっては、ネット上で「既存のアメリカンジョークの盗用ではないか」「海外の落語に元ネタがあるのではないか」といった噂が囁かれることがあります。しかし、これらは表現技法としての類似性から生じた完全な誤解です。
英語圏のコメディ技法には、長々と興味を引く無意味な話を語り、最終的に何の脈絡もない結末や肩透かしで終わらせる「シャギードッグ・ストーリー(Shaggy dog story/むだ話)」と呼ばれる伝統的なジャンルが存在します。三谷氏はこの欧米特有のナンセンス・ユーモアの構造を極めて深く理解しており、それを日本風の日常会話に落とし込んでローカライズしました。
かつて三谷氏は「落語の『寿限無』のように、語り口そのものが快楽である小話をドラマに持ち込みたかった」という趣旨の回顧を残しています。誰か特定の創作者からの盗用ではなく、古今東西の演芸・喜劇に共通する「語りの焦らし(サスペンス)」を脚本上のテクニックとして自覚的に抽出し、再構築した完全なオリジナルギミックであると結論付けられます。