物語の各局面で強烈なインパクトを残した個体を振り返ると、そこには綿密に張り巡らされた奇行種の伏線回収が凝縮されていることが分かります。代表的な事例を整理してみましょう。
喋る巨人(『イルゼの手帳』に登場した個体)
調査兵団のイルゼ・ラングナーが遭遇したこの個体は、ファンに最も強い衝撃を与えた奇行種の一体です。イルゼの姿を見た巨人は捕食行動を止め、頭を地面に擦り付けて「ユミル様…よくぞ…」「ユミルの民…」と言葉を絞り出しました。
後に明かされた真実によると、この巨人の生前は、かつてマーレ国内で信仰を集めていた「始祖ユミルを騙る少女(後の調査兵団ユミル)」を崇拝していた狂信徒の女性でした。イルゼの顔立ちがかつて崇拝したユミルに酷似していたため、巨人の破壊本能と生前の敬虔な信仰心が激しく衝突し、自らの顔面を引き裂きながら涙を流すという悲痛な奇行へ繋がったのです。
コニーの母(ラガコ村で横たわる巨人)
ジークの脊髄液ガスによって村人全員が巨人化させられたラガコ村。その自宅の残骸の上で、四肢が細く立ち上がることすらできない姿で発見されたのがコニーの母の奇行種です。彼女は動けない肉体でありながら、息子のコニー・スプリンガーを目視した瞬間、巨人の口を懸命に動かして「オ…カ…エ…リ…」と発声しました。我が子に対する母性の記憶が、巨人の絶対的な支配本能に打ち勝った象徴的な瞬間でした。
ダイナ・フリッツ(笑顔の巨人・カルラを捕食した個体)
エレンの母・カルラを奪い、物語の開幕を告げた笑顔の巨人も、極めて特殊な奇行種でした。シガンシナ区崩壊時、周囲にいたベルトルト(超大型巨人)には目もくれず、真っ直ぐにエレンの生家へと向かった行動は長年謎とされていました。彼女の生前は王家の血を引くダイナ・フリッツであり、巨人化される直前に夫であるグリシャ・イェーガーへ「どんな姿になっても、あなたを探し出すから」と誓い遺していました。その約束が無意識の執着となり、夫の残留思念が残る家、そして夫の後妻であるカルラのもとへ彼女を導いたと推測されます。
ロッド・レイス巨人(超大型を超える規格外の奇行種)
ヒストリアに拒絶された後、自ら床の脊髄液を舐めて巨人化したロッド・レイスの巨人化理由は、まさに投与プロセスの異常によるものです。注射ではなく経口摂取、さらに背骨を損傷した状態での変異だったため、体長120メートルという異形の超巨大ボディとなり、自重で立ち上がることすらできなくなりました。腹部を地面に擦り付けながらオルブド区を目指した理由は、知性を失った彼が本能的に「より人間の密度が高い場所」を求めて進軍したためであり、破壊衝動に純粋化した奇行種の極致といえます。