心筋梗塞からの回復後も、横山氏の前にはさらなる試練が待ち受けていました。読者の間で「空白の7年間」と呼ばれる長期休筆期間です。2005年前後から始まったこの沈黙期、横山氏は代表作となる『64(ロクヨン)』の執筆に取り組みながらも、苛烈なスランプと心身の不調に直面していました。
病み上がりの身体に鞭を打って原稿に向かうものの、自分が納得できるクオリティに届かない日々が続きます。書いた原稿を何度も破棄し、構成をゼロから練り直すという壮絶な試行錯誤が繰り返されました。執筆が思うように進まない焦燥感から、重い鬱屈状態に陥るなど、精神的な負荷も限界に達していたといいます。
実に7年もの執筆期間を経て2012年に上梓された『64(ロクヨン)』は、各種ミステリーランキングで1位を独占し、国内外で歴史的傑作と絶賛されました。しかしその栄光の裏には、作家が心身をすり減らし、文字通り命懸けで言葉を紡ぎ出した壮絶な闘病と葛藤の歳月が刻まれていたのです。