この事件が単なる製造ミスにとどまらず、社会的な大バッシングへと発展した最大の引き金は、はごろもフーズ側が「製品の自主回収」を行わず、事実の公表を約2週間にわたり見送ったことにありました。
通常、大手食品メーカーで健康被害や著しい不快感をもたらす異物混入が発覚した場合、同ロット製品の即時回収と社告の掲載が危機管理の鉄則とされます。しかし、同社が下した決断は「公表なし・回収なし」でした。保健所への報告と購入者への謝罪・返金対応のみで事態を収束させようとした姿勢に対し、報道機関の追及が始まると同時に「組織的な隠蔽体質ではないか」との批判が噴出しました。
同社が当時主張した自主回収を行わなかった理由は、主に以下の3点に集約されます。
- 偶発的な単発事故との判断:製造工程を検証した結果、ゴキブリがライン全体に大量繁殖していたわけではなく、飛来した1匹が偶発的に缶へ落ちたと結論づけたこと。
- 健康被害リスクの低さ:100度以上の高温高圧蒸気によるレトルト殺菌処理が施されているため、内容物が生物学的に無菌化されており、万一喫食しても急性中毒等の健康被害は発生しにくいと判断したこと。
- 製造から約2年が経過していた点:2014年末の製造からすでに約1年10か月が経過しており、流通した同一ロットの多くがすでに消費されていると想定されたこと。
しかし、この説明は生活者の感情的な納得を得るにはあまりに乖離していました。食の安全性は「衛生学的リスクの有無」だけで測れるものではなく、消費者が抱く「生理的嫌悪感」や「企業への絶対的信頼」によって成立しているからです。結果として、事実を積極的に開示しなかった企業の姿勢そのものが、メディアやネット言論空間における炎上を長期化させる決定的な要因となりました。