日本には古来「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」ということわざがあり、桜の枝を切ることはタブー視されてきました。桜の木は木質部が柔らかく腐朽菌が侵入しやすいため、安易に枝を切り落とすとそこから幹全体が腐って枯死してしまうリスクがあるためです。
しかし、現代の樹木管理においてはこの格言を鵜呑みにすることは推奨されていません。放置された老木や過密植栽では、日当たり不足や通気不良によって木全体が衰弱してしまうからです。プロの庭師や樹木医が口を揃えるのは、「切ってはいけないのではなく、切る時期と保護処置を間違えてはならない」という鉄則です。
最も安全な桜冬の剪定時期とは
桜の剪定において最もリスクが低いのが、樹液の流動が止まり完全な休眠期にある12月から2月中旬までの厳冬期です。春から夏にかけての活動期に枝を切ると、切り口から大量の樹液が漏れ出して体力を消耗する上、空気中に漂う木材腐朽菌の胞子が付着して感染を起こしやすくなります。一方、凍てつく冬の間は菌の活動自体が極めて不活発であるため、感染リスクを最小限に抑えられます。
ただし、冬剪定を行う際は以下の専門的ケアが絶対条件となります。
・枝の分岐部(バークリッジ)を残す:幹の付け根にある膨らみ(ブランチカラー)を傷つけず、わずかに外側で切り落とすことで、木自身のカルス(癒傷組織)による自己閉塞を促す。
・癒合剤(ゆごうざい)の即時塗布:切断面には必ずトップジンMペーストなどの癒合剤を隙間なく厚塗りし、雨水や乾燥、菌の侵入を人工的に遮断する。
・太い主枝は切らない:冬であっても直径5cmを超えるような太枝の切断は避け、重なり枝や枯れ枝、徒長枝の枝打ちにとどめる。
冬期に差がつく冬の桜手入れ方法「寒肥(かんごえ)」
春に見事な花を咲かせるためのもう一つの決定打が、1月から2月にかけて実施する「寒肥」です。桜の根は地表近くに浅く広がる性質を持っています。冬の間に油かすや骨粉、完熟堆肥などの有機質肥料を、樹冠の外周(枝先の真下に相当する地面)に浅く掘った穴へ施します。
冬の間は根も休眠しているため肥料焼けを起こす心配がなく、微生物によってじっくり分解された栄養素が、春の芽吹きと同時に根から吸い上げられて力強い花芽の発育を後押しします。さらに、根元周辺の土壌を踏み固めないよう落ち葉やバークチップでマルチングを施すことも、地温を保ち土壌微生物を守る有効な手当てです。