運ばれてきたイカの足に醤油を垂らした瞬間、突然跳ねるように踊り出す光景に驚いた経験を持つ人は少なくありません。あの激しい動きを見ると「まだ痛覚があって苦しんでいるのではないか」と感じてしまいがちですが、科学的なアプローチで解析すると全く異なる現象であることが分かります。
イカの踊り食いで動く理由は、イカの生体反応というよりは化学反応に近い現象です。料理として提供される段階で、イカの中枢神経(脳)はすでに締められており、感覚としての痛みを感じる機能は失われています。しかし、筋肉の細胞膜や末梢の反射神経には、エネルギー源であるアデノシン三リン酸(ATP)が残存しています。
そこに塩分を豊富に含んだ醤油が接触することで、高濃度のナトリウムイオンが筋肉細胞内に急速に流入します。これによって電気信号が発生し、筋肉の自動的な収縮が引き起こされるという仕組みです。つまり、生命が宿っているわけではなく、筋肉と神経に残された純粋な生理学的反射によって躍動しています。