骨董査定の現場でしばしば見られるトラブルが、「本物の肉筆画だと思って査定に出したら、昭和期に制作された高級美術印刷(工芸画)だった」というケースです。
昭和の高度経済成長期には、百貨店の外商や美術出版各社が著名画家の名作を精巧なコロタイプ印刷やオフセット工芸画として多数販売しました。これらは一見すると絹本や和紙に描かれた肉筆に見え、木箱に収められていることも多いため、素人目には判別が極めて困難です。
見分けるための実践的なチェックポイントは以下の通りです。
- ルーペでの拡大確認:ルーペで絵の具の乗っている部分を見たとき、規則正しい網点(ドット)が見える場合は印刷物。肉筆画は鉱物性顔料の粒子が不規則に重なり合っています。
- 絵の具の盛り上がりと質感:日本画特有の胡粉(白色の顔料)の厚みや、筆の毛先が擦れた「筆勢のカスレ」があるかどうか。印刷物には絵の具の物質的な盛り上がりがありません。
- 落款部分のインクの沈み:サインや印章が本紙の繊維に毛細管現象で自然に滲んでいるか、均一なインク膜として表面に乗っているかを見極めます。
ネットオークションやフリマアプリ等で「真贋不明・現状渡し」として安価に出品されている個体の中には、こうした工芸印刷を本画と誤認して(あるいは意図的に曖昧にして)出品されている事例も散見されるため、購入・売却双方の局面で慎重な見極めが求められます。