アブの吸血被害に遭った人の多くが「蚊とは比べものにならない激痛が走り、翌日に患部がパンパンに腫れ上がった」と証言します。なぜアブの虫刺されは、これほどまでに激しい症状を長期化させるのでしょうか。その答えは、アブ特有の吸血メカニズムと注入される唾液成分の毒性にあります。
一般的な蚊は、細い口針を毛細血管に直接挿入して麻酔成分とともに吸血するため、刺された瞬間の痛みはほとんどありません。対照的に、アブ(ウシアブ、イヨシロオビアブなど)は鋭い大顎(オオアゴ)と小顎を使って人間の皮膚を直接切り裂き、染み出してきた血液をすするという極めて荒々しい吸血形態をとります。この物理的な皮膚損傷そのものが、刺された瞬間の飛び上がるような激痛の主因です。
さらに深刻なのが、アブが傷口に流し込む唾液腺物質です。アブの唾液には、宿主の血液が固まるのを防ぐ強力な抗凝固ペプチドやヒスタミン様物質、組織破壊酵素が豊富に含まれています。人間の免疫系はこれらの異種タンパク質を排除しようと激しいアレルギー反応(局所性のアナフィラキシー様炎症反応)を起こします。組織損傷による一次炎症と、唾液毒によるアレルギー性炎症が同時に発生するため、アブ刺されの激しい腫れと痒みは受傷後12時間から24時間を境にピークへと達し、適切な治療を行わなければ数週間もしこりや熱感が引かない状態が続くのです。