物語の根底にあるのは、若手芸人が直面する残酷な現実と、魂の共鳴です。熱海の花火大会の営業先で、売れない若手コンビ「スパークス」の徳永は、天才肌の先輩芸人・神谷と運命的な出会いを果たします。徳永は神谷の圧倒的なオリジナリティと破滅的なカリスマ性に惹かれ、「神谷の伝記を書く」ことを条件に弟子入りを志願します。
吉祥寺の居酒屋で夜な夜な交わされるお笑い哲学、同棲相手の女性に依存しながら生きる神谷の危うさ、そして時代の波に乗れずに解散へと追い込まれるスパークスの苦渋。青春の終わりを冷徹なリアリズムで描いたのち、読者を待ち受けるのが、文学界でも激しい議論を呼んだ衝撃のクライマックスです。
自己破産を経て行方をくらませていた神谷が、数年ぶりに徳永の前に現れた姿は、読者の予想を遥かに超えるものでした。借金を抱えながら「おもしろくなりたい」という強迫観念をこじらせた神谷は、なんと豊胸手術を受けて胸を大きく膨らませていたのです。世間的な常識から見れば狂気であり、グロテスクな奇行にすぎません。しかし徳永は、常軌を逸してまで人を笑わせようとする神谷の愚直さに圧倒され、涙を流しながら彼を全肯定します。
物語を締めくくるラストシーンで放たれる名言は、今なお多くの表現者の胸を締め付けます。
「生きている限り、バッドエンドはない。僕達はまだその途中にいる」
成功者だけを礼賛する競争社会のなかで、淘汰されていった数え切れない敗者たちへの祈り。この一文があるからこそ、本作は単なるお笑い業界の暴露本ではなく、生きることそのものを肯定する普遍的な人間讃歌として結実しています。