長年、俗に「ホッテントットの体型」と形容されてきた最大の特徴は、腰部から臀部(お尻)にかけて異常なほど後方へ脂肪が突出する脂臀(いでん/しでん、学術名:Steatopygia)と呼ばれる現象です。医学・人類学の黎明期には「臀脂症」などと病名のように扱われた時期もありましたが、現代の人類遺伝学において、これは明白な過酷な乾燥地帯への適応進化であることが証明されています。
コイコイ族やサン族が数万年にわたり居住してきた南部アフリカのカラハリ砂漠周辺は、日中の気温が40度を超え、一方で水や獲物が長期間得られない乾季が定期的に訪れる極限環境です。人間が生命を維持するためには脂肪の備蓄が不可欠ですが、全身に皮下脂肪を均一につけてしまうと、毛細血管からの放熱が妨げられ、体温調節が破綻して熱中症で命を落とす危険が生じます。
そこで進化したのが、「放熱を妨げない局所への脂肪集中」というメカニズムです。砂漠を生きるラクダが背中のコブだけに脂肪を蓄えるのと全く同じ原理で、コイコイ族の祖先は、腹部や四肢の皮下脂肪を極限まで削ぎ落とし、筋肉の動きを妨げず、かつ内臓の熱放散に影響を与えにくい臀部周辺にのみ選択的に脂肪を蓄積する形質を獲得しました。
とりわけこの特徴は女性に顕著に現れます。妊娠中や授乳期に深刻な旱魃に見舞われた際、母親の身体は臀部に蓄えた脂肪を優先的に分解し、乳児へ母乳として栄養を供給し続けます。つまり、ヨーロッパ列強から好奇の目で見られたその骨格と肉体は、「飢餓と猛暑から次世代の命を守り抜くために獲得された極めて合理的な生命の防壁」だったのです。