運動としての効果もさることながら、心理学者や脳科学者たちが熱い視線を注ぐのが、パルクールがもたらすメンタル面の変化だ。
目の前に立ちはだかる壁。人間は未知の高さや障害物を前にすると、脳内で強い恐怖を感じる。トレーサー(パルクール実践者)はその恐怖を力任せに押し殺すのではない。自分の足筋力、跳躍距離、受身の確実性を冷静に計算し、「越えられる恐怖」へと分解していく。
物理的な壁をひとつ克服するたび、心の中に「自分はやり遂げられる」という強い自己効力感が刻まれる。仕事や人間関係で行き詰まったとき、画面の中のストレスに押しつぶされそうなとき、目の前の問題を別の角度から捉え直す粘り強さ。パルクールを通じて鍛えられるのは、実のところ足腰以上に「折れない心(レジリエンス)」なのだ。