日本人の体臭をめぐる議論で最も警戒すべきは、社会全体に蔓延する「無臭信仰(完全な無臭でなければならないという強迫観念)」です。
皮膚科医や臨床心理士の間では、実際には周囲が不快に感じるニオイを発していないにもかかわらず、「自分は悪臭を放って他人に迷惑をかけているのではないか」と思い悩む「自己臭恐怖症(自己臭症)」の相談件数が年々増加していることが問題視されています。職場での「スメルハラスメント(スメハラ)」対策が過熱した結果、個人の生理現象や加齢に伴う自然な変化に対して心理的バウンダリー(境界線)を踏み越えた攻撃や排除が起きやすくなっている側面は否定できません。
生きている人間の体は、皮脂膜を形成し外部刺激から身を守るために油分を分泌しています。完全な無臭など生理学上あり得ません。過剰なゴシゴシ洗いや1日に何度も行う強力なアルコール殺菌は、皮膚の善玉常在菌を全滅させ、かえって悪玉菌の異常増殖や皮脂の過剰分泌を招き、ニオイを激化させる皮肉な結果につながります。