ドラマ版『失楽園』が放送開始されると、その過激なベッドシーンや濃密な心理描写が毎週のように大反響を呼びました。それと比例するように週刊誌やワイドショーを賑わせたのが、「原作者・渡辺淳一と川島なお美は私生活でも男女の関係にあるのではないか」という熱愛疑惑です。
当時、文壇屈指のプレイボーイとして知られ、数々の恋愛小説の取材を兼ねた華麗な女性遍歴を隠さなかった渡辺氏と、大人の色気を全面に開花させた川島さんの組み合わせは、格好のゴシップの標的となりました。高級レストランでの会食風景や親密なパーティーでの同席が報じられるたび、世間は「凛子と久木の関係が現実化した」と邪推したのです。
しかし、当時の現場スタッフや文壇関係者の詳細な取材記録を検証すると、二人の関係は安直な愛人関係とは全く異なる地平にありました。渡辺氏にとって川島さんは、自らが描いた活字の肉体化に命を削る「究極のミューズ(表現の共犯者)」であり、川島さんにとって渡辺氏は、タレントから本格派女優へと生まれ変わらせてくれた「最大の恩師にして人生の恩人」でした。
後年、川島さんがパティシエの鎧塚俊彦氏と2009年に結婚した際、渡辺淳一氏は披露宴に主賓として出席し、心からの祝福を贈っています。もしドロドロとした男女の遺恨を残す関係であったならば、このような公の場での温かな祝福はあり得ません。二人が築いていたのは、お互いの才能と誇りを認め合う、極めて高潔な信頼関係だったと言えます。