外見の変化は、当事者にとっても恐ろしい体験として記憶されている。過去に重度のうつ病を患った当事者の手記や回復者のインタビューを紐解くと、鏡に映る自身の姿に対する恐怖が共通して語られている。
「ある朝、洗面所の鏡を見たとき、そこに映っていたのは自分ではなく、精気を吸い取られた見知らぬ老人のような顔だった。笑おうとして口元に力を入れても、頬の筋肉がまるで麻痺したかのようにビクとも動かない。その瞬間に、自分の脳が壊れてしまったのだと悟った」(大手IT企業勤務・30代男性の闘病手記より)
また、精神保健福祉士や産業医のカウンセリング現場でも、周囲が「表情の異変」を察知したことが受診の直接的な契機になったケースが極めて多い。SNSや患者コミュニティの投稿を分析しても、「同僚から『最近、目が笑っていないけれど大丈夫か』と指摘されて初めて心療内科の予約を取った」「実家に帰省した際、親から『顔色が土色で生気がない』と泣かれた」といった書き込みが数多く確認できる。
うつ病の当事者は、自責感の強さから「自分が怠けているだけだ」「もっと頑張らなければならない」と心身の悲鳴を否認しがちである。そのため、顔つきという客観的な身体シグナルこそが、本人すら欺こうとする病魔の存在を白日の下に晒す貴重なアラートとして機能しているのである。