ナスカの地上絵を語る上で長らく切り離せなかったのが、「古代宇宙飛行士説」に代表されるオカルト言説です。1968年にスイスのエーリッヒ・フォン・デニケンが著書『未来への記憶』で提唱した「地上絵は異星人の宇宙船着陸誘導路だった」という仮説は、世界的な大ベストセラーとなり、今なお根強い都市伝説として語り継がれています。
また、現地で調査に関わった学者や作業員に相次いだ事故や病を「ファラオの呪い」になぞらえ、「地上絵の呪い」「神を冒涜した者の末路」と煽るメディアも少なくありませんでした。しかし、考古学的な検証と現地発掘によって、こうしたセンセーショナリズムの背後にある「現実の真相」は完全に証明されています。
地上絵を制作した主体は異星人などではなく、パラカス文化およびナスカ文化を築いた現地の先住民族です。制作技法も決して超自然的な力によるものではありません。ナスカの大地は、表面に酸化した黒褐色の小石が広がり、その下層には白っぽい石灰質の土壌が眠っています。古代人たちは杭と縄を用いた単純な測量技術(グリッド拡大法)を用い、表面の黒い石を取り除いて脇に積み上げることで、下地の白い層を露出させて線を描きました。
では、なぜ彼らはここまでの情熱を傾けて地上絵を描き続けたのでしょうか。最大の目的は「水への祈願」です。ナスカ台地は世界有数の極乾燥地帯であり、年間降水量は数ミリから数十ミリ程度しかありません。山脈から流れ込む地下水脈だけが唯一の命綱でした。気候変動による干ばつが深刻化する中、大地に巨大な水神(シャチ、クモ、鳥)を描き、その線上を行列して歩くことで、地中の水脈を活性化させようとした切実な宗教的アプローチだったことが、地質調査や出土土器の残留物分析から明確になっています。