日本国内でナイアシンアミドによるうつ病治療がこれほど広く知れ渡った背景には、精神科医・藤川徳美医師(ふじかわ心療内科クリニック院長)による一連の著作と発信があります。藤川氏が提唱する「藤川理論」は、高タンパク・低糖質食をベースに、鉄分(フェリチン値の是正)とビタミンB・C・Eを大量に投与するメガビタミン療法を軸としています。
このアプローチは、カナダの精神科医エイブラム・ホッファーらが1950年代に統合失調症やうつ病の治療として開始したオーソモレキュラー療法の真相と実態を受け継ぐものです。藤川医師の著書や臨床報告では「長年抗うつ薬を飲んでも改善しなかった患者が、タンパク質充足とナイアシンアミド1,500〜3,000mg/日の摂取で劇的に寛解した」といった事例が多数紹介され、藁をもつかむ思いの当事者や家族の間で爆発的な支持を獲得しました。
一方で、日本精神神経学会をはじめとする主流の精神医学界におけるメガビタミン療法と藤川徳美医師の評判は、必ずしも手放しの絶賛ばかりではありません。「大規模な二重盲検無作為化比較試験(RCT)による客観的なエビデンスが不足している」「栄養療法単独で寛解したとされる症例にはプラセボ効果や自然寛解のバイアスが排除しきれていない」という慎重論が根強く存在します。さらに、医師の血液検査管理を伴わない一般読者が書籍の記述だけを真似て過剰摂取に走るケースが後を絶たず、臨床現場の医師がその対応に追われるという構造的な歪みも生じています。