骨盤が下がる現象の背景には、単なる運動不足による筋力低下にとどまらず、神経障害や骨関節の構造的破壊が潜んでいるケースが多々あります。トレンデレンブルグ徴候 原因を医学的に分類すると、「神経原性」「筋原性」「骨関節性」の3系統に大別されます。
まず神経性の要因として代表的なのが、中殿筋を支配する上殿神経損傷 理由です。仙骨神経叢(L4〜S1)から起始する上殿神経は、大坐骨孔を通って臀部に分布しますが、臀部への筋肉注射の穿刺位置の誤りや、人工股関節全置換術(THA)などの股関節手術時に過度な牽引や直接損傷を受けることで麻痺を来すことがあります。また、腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症によってL5神経根が圧迫された場合にも、中殿筋の脱力を招きます。
骨関節性の要因として圧倒的に頻度が高いのが変形性股関節症 症状としての発症です。関節軟骨の摩耗や寛骨臼形成不全に伴い、大腿骨頭が上方へ偏位(亜脱臼)すると、中殿筋の起始と停止の距離が短縮します。筋肉は適度な伸張位になければ十分な収縮力を発揮できないため(筋の張力・長さ曲線)、筋肉そのものが断裂していなくても機能的に筋力不全が生じ、骨盤を支えきれなくなります。
さらに小児期からの課題である先天性股関節脱臼 診断(現代では発育性股関節形成不全:DDHと呼ばれる)においても、トレンデレンブルグ徴候は歩行開始期に見られる決定的な臨床所見です。股関節の求心性が失われているため、支持基底面が崩壊し、患児特有のあひる歩行(動揺性歩行)を引き起こす要因となります。