「春眠暁を覚えず」に続くフレーズを即座に口ずさめる人は、古典に親しんだ層を除けば驚くほど少数派です。この作品は、漢字20文字で構成される定型詩五言絶句の最高峰と称される『春暁(しゅんぎょう)』という作品です。
その完成された構成を、書き下し文と詳細な春暁現代語訳で辿ってみると、詩人の視線が部屋の内側から外の広大な自然へと鮮やかに広がっていくダイナミズムに圧倒されます。
春眠暁を覚えずの続きとなる第二句「処処聞啼鳥(しょしょていちょうをきく)」では、微睡みから覚醒しかけた耳に届く春鳥のさえずりが描かれ、生命の喜びに満ちた朝が提示されます。
ところが、第三句の「夜来風雨の声(やらいふううのこえ)」で空気は一変します。昨夜吹き荒れた嵐の音を思い出すことで、穏やかな目覚めに影が差す構成です。そして結びの「花落つること知る多少(はなおつることしるたしょう)」で、雨風に散ったであろう咲き誇る花々(主に桜や桃、海棠など)に思いを馳せ、胸を締め付けられるような余韻を残して詩は閉じられます。
布団の中で微睡む幸福感から、美しく散りゆくものへの切なさへ。このわずか20文字の中に凝縮された起承転結のドラマこそが、『春暁』が千年以上愛され続ける真の理由です。