「なぜコチは三枚におろそうとすると身が裂けてしまうのか」。この疑問に対する解剖学的な答えは、背骨(脊椎骨)から左右に伸びる神経棘と血合い骨の特異な角度にあります。マゴチは底生生活に適応して縦に押しつぶされたような扁平体型をしており、通常の魚のように「背側」「腹側」から均等に包丁を入れていくと、骨と身の境界を見失って身を骨側に残してしまうのです。
美しく仕上げるためのマゴチの三枚おろし手順と、手軽に成功させるコチの大名おろしの二大アプローチを整理して解説します。
【基本:頭部と内臓の処理】
左右の胸ビレの後ろからエラ蓋のラインに沿って斜めに包丁を入れ、脊椎骨を切断します。このとき完全に切り離さず、腹側をつなげたまま頭部を引っ張ると、胃袋や腸などの内臓が頭と一緒に引き出されます。残った血合いを歯ブラシやササラを使って流水で綺麗に掻き出し、ペーパータオルで腹腔内の水分を限界まで拭き取ります。
【アプローチ1:マゴチの三枚おろし手順(歩留まり重視)】
1. 尾の付け根に切れ目を入れ、包丁の刃先を中骨の感触を確かめながら滑り込ませます。
2. 腹側から刃を入れ、中骨に沿って「カリカリ」と骨を擦る音を感じながら中心の背骨まで切り進めます。
3. 魚体を反転させ、背側からも同様に中骨に沿って刃先を進めます。
4. 中心の中骨と身をつなぐ血合い骨の抵抗を感じたら、刃を少し立てて断ち切り、上身を切り離します。
5. 魚体をひっくり返し、骨の面を下にして同様に下身をおろします。
【アプローチ2:コチの大名おろし(失敗回避・初心者推奨)】
40cm未満の中・小型個体や、包丁裁きに自信がない場合は迷わず大名おろしを選択してください。頭を落とした断面から中骨の上に包丁を水平に当て、尾に向かって一気に平らに削ぐように刃を滑らせます。背側・腹側から刻む工程を省くため身割れのリスクが極めて低く、驚くほど滑らかな断面が得られます。骨側に多少身が残りますが、これは後述する極上のアラ汁に活用できるため、家庭調理においては一切の無駄になりません。