単焦点レンズとは、焦点距離を変更するズーム機構を持たず、あらかじめ決められた単一の画角(焦点距離)のみで撮影を行うレンズを指します。例えば「50mm」と表記されたレンズであれば、撮影者がどれほどリングを回そうと画角は50mmのまま変わりません。遠くの被写体を大きく写したい場合や、逆に広範囲をフレームに収めたい場合は、撮影者自身が前後に移動して距離を調節する必要があります。
一見すると極めて不便に感じられるこの仕様ですが、光学設計の視点に立つと全く逆の評価に変わります。一般社団法人カメラ映像機器工業会(CIPA)の技術公開資料や各光学機器メーカーの開発設計思想が示す通り、光学設計における最大の敵は「妥協」です。ズームレンズは広角端から望遠端までのあらゆる領域で収差(像の歪みや色にじみ)を抑え込む必要があるため、内部に15枚から20枚以上ものガラスレンズを複雑に配置しなければなりません。その結果、ガラスと空気の境界面が増えて光の透過ロスが生じ、鏡筒は大型化し、F値(絞り開放値)も暗くなりがちです。
対して単焦点レンズは、特定の焦点距離において最高の光学性能を発揮することだけを目的に設計されます。余分な補正レンズを減らせるため、光の乱反射が少なく、中心部から画面周辺部に至るまで鋭利な解像力を維持できます。レンズ構造がシンプルな設計にとどまるからこそ、鏡筒をコンパクトに保ちつつ、光を極限まで取り込む大口径設計が可能になるわけです。