麻婆豆腐の発祥の地である中国・四川省成都市。清代末期に「陳麻婆」と呼ばれる女性が考案したとされる本場の麻婆豆腐(陳麻婆豆腐)では、一体どんな豆腐が使われているのでしょうか。
現地の伝統的な製法で用いられるのは、日本の木綿豆腐に近い「老豆腐(ラオドウフ)」や「胆水豆腐(ダンシュイドウフ)」と呼ばれる硬めの豆腐です。にがりを使ってしっかりと水分を抜き、大豆の野性味あふれる風味と引き締まった弾力を持たせた豆腐が使われます。本場四川の麻婆豆腐は、油を多量に使い、強火で挽肉をカリカリに炒め上げ、激しい辛味(辣)と痺れ(麻)をまとわせる料理であるため、柔らかい豆腐では水分が出て味がぼやけてしまうからです。
では、なぜ日本で「絹ごし麻婆豆腐」がこれほど普及したのでしょうか。その歴史的背景には、日本の中華料理の父と呼ばれる故・陳建民氏(陳建一氏の父)の工夫がありました。昭和の中頃、本場の麻婆豆腐を日本人の口に合うようアレンジして紹介した際、当時の日本人が好む柔らかく優しい口当たりを考慮して絹ごし豆腐を使ったレシピが広まったとされています。つまり、「本格四川の味を求めるなら木綿」「日本で親しまれてきた家庭的な優しさを求めるなら絹ごし」という背景が存在します。