紀州のドンファン事件がこれほどまでに混迷を極めた最大の理由は、「誰が、どのようにして覚醒剤を飲ませたのか」という決定的な直接証拠が最後まで見つからなかった点にあります。
覚醒剤が入っていたとされる容器やコップ、摂取を裏付ける指紋・DNAなどの客観的証拠は現場から採取されませんでした。野崎氏の胃の中に残っていた覚醒剤の成分から、経口摂取であることは間違いありませんが、彼が自らビールなどに混ぜて飲んだのか、それとも須藤被告に巧妙に盛られたのかを証明する瞬間を誰も目撃していないのです。
巨額の資産を持つ富豪の怪死劇は、数々の状況証拠を提示しながらも、真実の扉を完全に開くには至りませんでした。残された巨額遺産の行方を巡る民事訴訟(遺言書の有効性を巡る親族と田辺市の争いなど)も含め、ドンファンを取り巻く人間模様の闇は依然として深く暗い影を落としています。