「にいちゃん」は、実の兄弟間だけでなく、地域社会における他者への呼びかけとしても広く機能してきました。特に方言や地域文化の違いにおいて、そのニュアンスは劇的に変化します。
例えば関西圏や大阪の下町文化では、商店街や飲食店で面識のない若い男性店員や通行人に対して「にいちゃん、これなんぼ?」と呼びかける光景が日常的に見られます。ここでの「にいちゃん」は、親族関係を示すものではなく、相手への警戒心を解き、一瞬で心理的距離を縮める社会的潤滑油として機能しています。
一方、東北地方では「あにき」「あんちゃん」、九州の一部地域では「あにさん」といった呼称が根強く、長男が担う家制度的責任と結びついた重みを持つケースが少なくありません。同じ言葉であっても、地域コミュニティの構造や他者との距離感によって、内包されるニュアンスは大きく異なります。