一方で、妻である鴻巣友季子氏は、日本の翻訳業において金字塔を打ち立ててきた人物だ。言葉の端々に漂う空気感や、時代背景に潜む欲望までをも見事に掬い取るその手腕は、海外文学ファンの心を捉えて離さない。
代表作の一つであるエミリー・ブロンテの『嵐が丘』では、従来の古典的な文体イメージを覆し、登場人物たちの持つ熱量とグロテスクな生々しさを現代の躍動感ある日本語へと昇華させた。さらに、F・スコット・フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』の新訳においても、作品が描くアメリカの狂気と哀愁を流麗なタッチで描き出し、大きな話題を呼んだ。
単なる訳者にとどまらず、文芸批評家としても鋭い論考を発表し続ける鴻巣氏。雑誌『文藝春秋』での連載や、個人の発信拠点であるnoteなどを通じて、言葉が持つ力や社会構造への問い直しを精力的に試みている。