本作の骨格を成していたのは、直虎(おとわ)、小野但馬守政次(鶴丸)、そして井伊直親(亀之丞)という幼なじみ3人の切なくも残酷な人間関係です。この3本の線が絡み合い、もつれ合いながら進行する劇構造こそが、視聴者を毎週テレビの前に釘付けにした最大の推進力でした。
今や語り草となっているのが、おんな城主直虎 高橋一生 小野政次のコンビネーションです。小野家は井伊家の中で常に裏切り者の疑いをかけられる宿命を背負った筆頭家老の家系。高橋一生演じる政次は、井伊谷を守るためにあえて自らを「冷酷な奸臣(かんしん)」に仕立て上げ、敵対勢力である今川家との間で危険な綱渡りを続けました。直虎と政次の間には、言葉による甘い逢瀬など一切ありません。交わす視線のわずかな揺らぎ、背中越しの沈黙、偽りの詰問の中に忍ばせた真意。柴咲コウと高橋一生の間に流れる濃密な緊張感は、テレビドラマの枠を完全に超越していました。
その極致が、第33回「嫌われ政次の一生」で描かれた壮絶な磔(はりつけ)の場面です。近藤康用の罠により反逆の罪を着せられた政次を、他の誰でもなく直虎自らが槍を手に取り、その胸を突き刺すという衝撃的な展開でした。周囲を欺き、政次の魂を救うために「地獄へ落ちろ!」と罵詈雑言を浴びせながら槍を突き立てる直虎と、その槍を受け止めながら恍惚とも取れる笑みを浮かべて息絶えた政次。当時のSNSでは「大河史上に残る凄絶な愛の告白」「共犯関係の究極形」としてトレンドを独占し、社会現象となりました。
また、直虎 柴咲コウ 三浦春馬が演じた井伊直親の存在も欠かせません。三浦春馬が演じた直親は、爽やかな笑顔の裏に、逃亡生活で培われた冷徹な計算と家名存続への執念を秘めた複雑な若武者でした。直親の非業の死が物語前半の決定的な転換点となり、残された直虎と政次に重い遺志を突きつけることになります。柴咲、高橋、三浦という稀代の表現者たちが揃ったからこそ、幼少期の約束が戦国の非情によって歪められていく悲劇性が、これ以上ない説得力を持って結実したのです。