お尻の穴に痛みが走った際、多くの人が真っ先に疑うのが「痔」です。実際に日本臨床肛門病学会の診療ガイドライン等に示されている臨床データでも、肛門痛を主訴に来院する患者の約7割から8割は痔疾患(痔核・裂肛・痔瘻)に起因しています。しかし、残りの2割から3割には、全く異なるメカニズムで発生する疾患が存在します。痛みの引き金となる主な原因は、大きく4つのカテゴリーに分類されます。
第1に、硬い便の通過や下痢の勢いによって肛門上皮が物理的に裂ける「裂肛(切れ痔)」です。神経が集中している歯状線より外側の皮膚が傷つくため、排便時にお尻が痛い・トイレットペーパーに鮮血が付着するといった症状が顕著に現れます。初期段階では排便後数分で痛みが引くものの、慢性化して潰瘍が深くなると、括約筋の痙攣によって数時間にわたり鈍痛が継続します。
第2に、肛門付近の静脈叢に血豆が形成される「血栓性外痔核」です。重い荷物を持ち上げた際や、長時間のデスクワーク、ゴルフのスイング、冷えなどが引き金となり、急激に腫れ上がります。皮膚がピンと張り詰めるため、お尻の激痛で座れない理由の筆頭格として挙げられます。
第3に、最も警戒しなければならない細菌感染症「肛門周囲膿瘍」です。直腸と肛門の境目にある小さなくぼみ(肛門陰窩)から大腸菌などの細菌が侵入し、肛門周囲の組織で化膿して膿が溜まる病態を指します。肛門周囲膿瘍の初期症状は、お尻の奥の重苦しい違和感や微熱から始まり、次第にズキズキとした激痛へと激化。放置すると皮膚を突き破って膿が噴き出す「痔瘻(あな痔)」へと進行し、自然治癒は不可能になります。
第4に、器質的な異常が見当たらないにもかかわらず痛む「肛門挙筋症候群」や「突発性肛門痛(消散性直腸肛門痛)」です。夜間や安静時に突然、お尻の奥がズキズキ痛む原因として知られ、骨盤底筋群の緊張や自律神経の乱れ、ストレスが関与していると臨床現場で指摘されています。