ツングースカ事件が20世紀最大の謎と呼ばれた最大の要因は、「あれほどの破滅的な破壊をもたらしながら、隕石衝突による大クレーターが地表に見当たらない」というパラドックスにありました。
1920年代後半、ソビエト連邦の鉱物学者レオニード・クーリック率いる調査隊が初めて現地入りした際、研究者たちは巨大な衝突孔を見つけることを確信していました。しかし、彼らが目の当たりにしたのは、爆心地中心部で枝葉を失い電柱のように直立したままの樹木群(通称「電話柱の森」)と、そこから外側へ向けて蝶の羽のように放射状に倒れた無数の巨木でした。
この特異な倒木パターンは、天体が地表に直撃したのではなく、上空5〜10キロメートルの大気圏内で天体が急激に運動エネルギーを解放する「空中破裂(エアバースト)」を起こした決定的な証拠です。秒速数十キロメートルで大気圏へ突入した天体は、前方に超高圧の衝撃波(ラム圧)を形成します。天体の強度がこの圧縮力に耐えられなくなった瞬間、一気に破砕・気化して球状の衝撃波が直下へ吹き荒れました。中心直下では下向きの圧力が加わったため幹が直立して残り、周囲では強烈な横風となって森林を薙ぎ倒したのです。