2018年の紅白歌合戦において、NHKホールではなく徳島県鳴門市にある大塚国際美術館のシスティーナ・ホールから生中継を行った演出は、テレビ史に残る名場面として知られています。約7,000本とも言われる無数のロウソクの光に包まれた空間で披露された「Lemon」は、視聴者の心を強く揺さぶりました。
当初、メディア露出を極力控えていた米津玄師がなぜ紅白のオファーを承諾し、かつ東京のスタジオではなく徳島からの生中継という異例の形を選んだのか。そこには極めて個人的で切実な背景が存在していました。
「Lemon」という楽曲は、ドラマ『アンナチュラル』の主題歌として制作される過程で、最愛の祖父が他界した経験から生まれた鎮魂歌です。当時の所属レコード会社および公式発表によると、祖父が生きた故郷である徳島の地から歌を届けること、そして楽曲の世界観を一切損なわない厳粛な空間を用意することが出演の絶対条件でした。美術館のシスティーナ・礼拝堂天井画を模した荘厳な舞台装置は、単なるビジュアル重視の演出ではなく、楽曲に込められた魂を真っ直ぐに届けるための必然だったのです。
歌唱直後、紅組司会を務めていた広瀬すずや総合司会の内村光良に対し、「この場を用意していただいたすべての方に感謝を述べたいと思います」と言葉を紡ぎ、満面の笑みを見せた瞬間は、生放送ならではの人間味が垣間見えた貴重なシーンとして刻まれています。