「30語のうち半分も知らない」「身の回りで使っている人を一度も見たことがない」。毎年繰り返されるこの不満について、大手ポータルサイトのコメント欄や知恵袋、SNSの投稿データを抽出・分析すると、ネットユーザーの率直な苛立ちが浮き彫りになる。
実態調査によると、ノミネート30語に対する一般読者の平均認知数は「わずか8〜11語」にとどまるというデータもある。7割近くの言葉が「初耳」であるにもかかわらず、それが「今年を代表する流行語」としてメディアで大々的に報じられる。この著しいギャップが生じる最大の原因は、情報接触環境の構造変化だ。
かつての昭和・平成初期において、流行語は全員が同じ時間に見ていた地上波テレビのゴールデン番組や、全国紙の一面から生まれていた。そこには「国民全員が共有する単一の広場」が存在した。しかし令和の現在、SNSの推薦アルゴリズムはユーザーの関心に応じてタイムラインを極限まで最適化している。サッカーファンにはスポーツの話題だけが、美容好きにはコスメのトレンドだけが、投資クラスタには金融用語だけが届く。結果として、「自分の界隈では100%知られているが、隣の界隈では認知度ゼロ」という局所的熱狂が無数に乱立する時代となった。
それにもかかわらず、大賞の母体である『現代用語の基礎知識』は、百科事典として「その年に記録しておくべき多様な言語事象のアーカイブ」を使命としている。大衆の認知度ランキングではなく、「言葉としての記録価値」を重視する編集方針と、「流行=みんなが知っていること」と捉える世論との間に、修復しがたい認識のズレが生じているのだ。