モロー反射(Moro Reflex)とは、オーストリアの小児科医エルンスト・モローによって発見された、新生児期から乳児期早期に見られる代表的な「原始反射」のひとつです。医学的な文献や公的医療機関の解説によると、別名「抱きつき反射」とも呼ばれ、自分の意思で筋肉を動かす随意運動ではなく、外的な刺激に対して体がオートマチックに反応する不随意運動として分類されます。
この現象におけるモロー反射の原因は、脳の中で最も生命維持に直結する「脳幹」と呼ばれる部位の働きにあります。受精卵からヒトの形へと成長する過程で、中枢神経系は下位の脳幹から上位の大脳皮質へと順に発達します。生まれたばかりの赤ちゃんは、まだ理性や高度な運動を司る大脳皮質が未成熟な状態にあるため、原始的な脳幹の反射システムが前面に出て、身体を外敵や危険から守ろうとするのです。
日常生活において新生児がビクッと起きる理由の引き金となるのは、主に以下の3つの感覚刺激です。
- 重力受容器の急激な変化:抱っこから布団へ降ろす際や、頭の位置が急に数センチ下がったときに生じる「落下感」。
- 聴覚への強い刺激:ドアがバタンと閉まる音、くしゃみ、スマートフォンの通知音などの突然の物音。
- 視覚・触覚の急変:急に部屋の明かりが点灯した際や、肌に冷たい空気や手が触れた瞬間。
これらの刺激を感知すると、中枢神経が「落下する危険がある」「何者かが接近した」と誤認し、まず両腕を外側にパッと広げて指を開き(外転・伸展相)、その直後に腕を胸の前で丸めて何かに抱きつくような姿勢(内転・屈曲相)を取ります。かつて人類の祖先が樹上生活を送っていた頃、母親から滑り落ちそうになった瞬間にしがみついて命を守っていた名残であるという仮説が有力視されています。
なお、小児科検診で確認される主な原始反射一覧には、モロー反射のほかにも多彩な反応が存在します。
- 吸啜(きゅうてつ)反射:口唇に触れたものに吸い付く反射。
- 把握(はあく)反射:手のひらや足の裏に触れたものを強く握りしめる反射。
- バビンスキー反射:足の裏の外側をなぞると足の親指が反り返る反射。
- 非対称性緊張性頸反射(ATNR):顔を向けた側の手足が伸び、反対側の手足が曲がるフェンシングのような姿勢。
これらはすべて、赤ちゃんが過酷な外の世界で生き抜くために生まれ持った生命維持の知恵であり、神経系が正常に機能していることの証明となります。