まず押さえておきたいのが、この天界の正確な名称と意味です。一般に「楽変化天」は「らくへんげてん」と読みます。日常会話では耳慣れない言葉ですが、サンスクリット原語の「Nirmāṇarati(ニルマーナラティ)」を漢訳した仏教専門用語です。「Nirmāṇa」は変化・創造・作られたものを意味し、「rati」は愛楽・歓喜・楽しむことを意味します。つまり、「自ら変幻自在に楽しみを創り出す天」というのが文字通りの意味です。
仏教の解説書や古典文学では、しばしば「化楽天(けらくてん)」あるいは略して「化天(けてん)」とも表記されます。ここで多くの人が「楽変化天と化楽天は別の世界なのか?」という疑問を抱きますが、結論から言えば両者はまったく同一の天界を指しています。
翻訳の変遷を辿ると、鳩摩羅什などの初期の訳経僧たちが親しみやすい意訳として「化自楽天」や「化楽天」を用い、のちに玄奘三蔵などが原語の語順やニュアンスをより忠実に反映させて「楽変化天」と訳出しました。平安時代末期に成立した『今昔物語集』巻三においても、「四天王天、忉利天・夜摩天・兜率天・楽変化天・他化自在天に皆昇り至て一々に令見む」と記されており、日本の古典文学や仏教説話においても「楽変化天」の名が重用されてきた歴史が確認できます。