インターネット上の掲示板やSNSでは、しばしば「松尾ジンギスカンは工場でパック詰めされたタレ漬け肉なのだから、通販で買っても、札幌駅前店で食べても、滝川本店で食べても味は同じだ」という論調が見受けられる。しかし、この言説には飲食の現場構造を見落とした重大な盲点がある。
第1の盲点は、「肉の解凍・温度管理とドリップの流出防止」だ。冷凍パック肉を自宅や簡易な設備で解凍する場合、温度変化によって肉の細胞が破壊され、旨味成分を含んだドリップが外に流れ出てしまう。滝川本店では、工場直送のチルド状態および徹底した専用冷蔵庫での解凍・熟成管理が行われており、繊維の中にタレと肉汁が完全に留まった状態でサーブされる。口に入れた瞬間のジューシーさと弾力は、家庭での調理とは明確に一線を画す。
第2の盲点は、「専用鉄鍋のコンディションと熱伝導率」である。本店で長年使い込まれ、油が馴染んだ特製ジンギスカン鍋は、一般的な薄手のプレートとは蓄熱性が全く異なる。強火で一気に肉の表面を焼き固めつつ、余分なタレがスムーズに外周へ流れ落ちる勾配設計が施されており、肉がベチャつかずに香ばしく仕上がるのだ。
そして第3の盲点は、松尾ジンギスカン本店の混雑状況と予約難易度に関する油断だ。「地方都市の郊外店だから予約なしでも入れるだろう」と高を括って休日の12時台や18時台に訪れると、観光バスの団体客や道内各地からのドライブ客で満席となり、1時間以上の順番待ちを余儀なくされるケースが後を絶たない。特にゴールデンウィークや夏季休暇、シルバーウィークなどの観光最盛期には、事前予約のない突撃は極めてリスクが高い。