ブレイク以降の高橋一生の躍進は目覚ましく、2017年の坂元裕二脚本ドラマ『カルテット』(TBS系)で演じたヴィオラ奏者・家森諭高役では、屁理屈が多く面倒くさいけれどどこか愛おしい男の心理を絶妙なリアリティで表現。「唐揚げにレモンをかけるか否か」をめぐる長回しの会話劇は、日本のドラマ史に残る名シーンとして語られています。
同年にはNHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』で小野政次役を熱演。自らの命を賭して主人公・直虎と領民を守り抜く苛烈な生き様と、壮絶な最期を遂げた「政次ロス」は社会現象となりました。さらに2018年にはアラフォー俳優としては異例となる「エランドール賞新人賞」を受賞。映画界でも黒沢清監督の『スパイの妻』(2026年)で第77回ヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞(監督賞)に輝く作品の屋台骨を支え、日刊スポーツ映画大賞助演男優賞を受賞するなど、名実ともに日本を代表するトップアクターへと登りつめました。
なぜ彼の演技はこれほどまでに観客を魅了するのか。業界の監督陣が口を揃えるのは、「引き算の美学」です。感情を高らかに叫ぶのではなく、目線のわずかな泳ぎ、指先の微細な震え、セリフを発する前の沈黙の長さによって、登場人物の内面に渦巻く葛藤を表現する技術に長けています。視聴者は彼の抑制された表情の奥にある心情を無意識に読み取ろうとし、結果として物語の世界へ深く引きずり込まれるのです。