本作の最大のギミックであり、発表時に日本中を騒然とさせたのが、曲中で突如リフレインされる「努力 未来 A BEAUTIFUL STAR」というフレーズです。これは2002年にリリースされたモーニング娘。のメガヒット曲「そうだ!We're ALIVE」(作詞・作曲:つんく♂)からの正式なサンプリング引用でした。
なぜ米津玄師は、ダークで血生臭い世界観を持つ『チェンソーマン』の主題歌に、平成を代表するアイドルソングのフレーズを持ち込んだのでしょうか。そのモーニング娘。サンプリングの理由について、米津は自身の制作メモや手記の中で「曲を作っている最中、あまりにも混沌とした音の渦の中で、小学生の頃にテレビで聴いたあのフレーズが突如として脳裏に響き渡り、離れなくなった」と告白しています。「努力、未来、美しい星」という無垢で肯定的な言葉が、血みどろの世界でパンの耳をかじる主人公デンジの境遇と重なった瞬間、これ以上の言葉はないと確信したと振り返っています。
もちろん、歴史的なメジャー曲のフレーズを使用するには高いハードルが存在しました。そこで米津陣営は、楽曲のデモ音源を添えてつんく♂サイドへ直接正式な楽曲使用許可を申請。当時、つんく♂が自身のSNSやnoteで明かした楽曲使用許可の裏話によれば、デモ音源を聴いたつんく♂は「おいおい、こんな風に料理するんか!めちゃくちゃかっこええやんけ」と、米津のクリエイティビティに深く感銘を受け、即座に快諾したといいます。平成のポップカルチャーを牽引した巨匠から、令和のトップランナーへのバトンパスというべき美しいリスペクトが、この大胆なサンプリングの裏には存在していたのです。