物語の発端は、ごく一般的な家庭に訪れた「些細な違和感」でした。浪人生である主人公・加藤修平の家に、見知らぬ小太りで薄気味悪い風貌の男・沼田がいつの間にか上がり込んでいたことから、悪夢のような日常が幕を開けます。
妖怪伝承における「ぬらりひょん」は、勝手に他人の家に上がり込み、まるでその家の主人のように振る舞う妖怪として知られています。本作の沼田はまさにその伝承を現代のリアルな狂気に落とし込んだ存在です。父親の知人面をして食卓に座り、母親を懐柔し、妹や家族の精神的な主導権を奪っていきます。
修平だけがその異様さに気づき排除を試みるものの、沼田は家族それぞれのコンプレックスや弱みに巧みに入り込み、孤立した修平を「頭のおかしい嘘つき」へと仕立て上げていきます。逃げ場を失っていく家庭環境の描写は、まさに一級のサイコホラーサスペンスとしての緊迫感に満ちています。