尖閣湾の名を日本全国に知らしめた歴史的背景も見逃せない。昭和20年代、劇作家の菊田一夫が手がけたNHKラジオドラマから社会現象へと発展し、映画『君の名は』(1953年版)のメガヒットへとつながった一大ブームだ。ヒロインの氏家真知子(岸惠子)と後宮春樹(佐田啓二)が運命的な別れと再会を繰り返す切ない物語の象徴として、この地の断崖に架かる木橋が登場した。
当時、撮影のために架けられた橋は「まちこ橋」と名付けられ、全国からファンが押し寄せる一大観光ブームを巻き起こした。現在は堅牢な遊歩道と橋が整備されているが、荒涼とした岩肌と白波を背景に立つと、岸惠子がショールを巻きながら佇んでいた当時の劇的な空気が鮮やかに蘇ってくる。