給食の記憶においてミルメークが全国共通のソウルフードだと信じて疑わない人にとって、「出ない地域が存在する」という事実は大きな衝撃を与えます。実際、文部科学省の学校給食実施基準のもと、各自治体の教育委員会や学校給食会が献立を決定する過程で、採用の可否を分けた決定的な理由が3つの構造的要因として存在します。
第一の要因は、各自治体が掲げてきた「食育方針の根本的な思想差」です。特に東京都をはじめとする一部の大都市圏では、長年にわたり「学校給食は素材本来の味を舌で覚える場であり、牛乳に甘みや香料を加えて飲ませるべきではない」という厳格な指導方針がとられてきました。カルシウム補給を最優先に考えてミルメークを導入した自治体がある一方で、「甘い味付けに頼らなければ牛乳が飲めない子どもにしてはならない」と判断した自治体では、採用リストから最初から除外されていたのです。
第二の要因は、学校給食における「牛乳容器の形態差(瓶牛乳からパック牛乳への移行)」です。ミルメークは当初、瓶牛乳の口から投入することを前提とした「粉末タイプ」として普及しました。しかし、昭和50年代から平成にかけて、割れにくく軽量な紙パック(三角テトラパックや四角いブリックパック)へ切り替える酪農組合・乳業メーカーが急増します。開け口が小さく密閉された紙パック牛乳に粉末を流し込むと、吹きこぼれたりストロー穴から入れられなかったりするトラブルが相次ぎ、容器の変更とともに献立から外される学校が続出しました。
第三の要因は、「地域ごとの牛乳自体の鮮度と調達コスト」です。北海道をはじめとする酪農王国や、地場産牛乳のブランド力が極めて高い地域では、そもそも加工や味付けをしなくても子どもたちが美味しく飲み干せる高品質な生乳が供給されていました。さらに、1食あたり数十円単位で厳格に管理される給食費予算の中で、ミルメークの追加費用(1食あたり約15〜20円程度)を捻出するかどうかも、財政面での採否を分ける分水嶺となったのです。