母・喜美枝による妨害工作に加え、事態を動かしたのは昭和芸能界の黒幕とも称された山口組三代目組長・田岡一雄の存在でした。田岡はひばりの後見人であると同時に、男気溢れる小林旭の器量も高く評価しており、二人の結婚を後押しした仲介者でもありました。
小林旭が自著『熱き心に』や文春オンラインなどの特番インタビューで生々しく明かしたところによると、泥沼化する家庭環境を見かねた田岡は、ある日小林を密かに料亭へ呼び出しました。そこで田岡が重い口を開いて告げた言葉が、昭和史に残る引導となります。
「旭、すまないが別れてやってくれ。ひばりは日本の宝だ。お前一人のものにはできないんだよ」
絶対的な権力者であり、父親のように敬愛していた田岡からの直接の懇願に、小林旭は反論の言葉を失いました。小林自身、ひばりを愛してやまなかったものの、巨大な興行資本と国家的人気、そして家族の執念が絡み合う「美空ひばりという怪物システム」から彼女を一個人の妻として救い出すことは不可能だと悟った瞬間でした。男として筋を通すため、小林はその場で身を引く決断を下したと報じられています。