料理の現場で長年議論される「干物は皮から焼くべきか、身から焼くべきか」という問いですが、調理科学の視点から言えば答えは使用する熱源の構造によって180度変わります。昔から言われる「魚は身から、ト(魚以外)は皮から」という格言は、炭火のように下から熱が立ち上る環境を前提とした教えに過ぎません。
家庭用調理器具における判断基準は極めて明快です。
まず、上部にヒーターがある一般的な「片面焼きの魚焼きグリル」を使用する場合、最初は「身」を上にして焼くのが正解です。干物の身に含まれるタンパク質は60〜65℃で凝固を始めます。最初に熱源に近い上側(身の表面)を素早く加熱してタンパク質の膜を形成させることで、内部のジューシーな水分と脂を閉じ込めることができます。焼き時間の比率は「身が7割、皮が3割」を目安とし、身側に綺麗な焼き色がついてから裏返して皮目を香ばしく仕上げます。
一方で、下から直に熱が伝わる「フライパン」や「ホットプレート」を使用する場合は、必ず「皮」を下にして焼き始めます。皮の側には皮下脂肪が豊富に含まれており、熱を受けることで自らの上質な脂が溶け出し、魚自らを揚げ焼きのように香ばしくコーティングする効果が得られます。また、身から先に直接フライパンに当てると、表面の繊維が急激に縮んで水分が蒸発し、身割れやパサつきの直接原因になるため注意が必要です。
なお、上下から均等に加熱できる「両面焼き魚焼きグリル」や「オーブントースター」の場合は、ひっくり返す手間がありませんが、盛り付け時に表となる「身を上」にしてセットするのが基本セオリーとなります。