年間1,600万ケース以上を売り上げ、社会現象とまで呼ばれた桃の天然水が市場から姿を消すに至った背景には、単一の要因ではなく、重層的な経営判断と致命的なアクシデントが絡み合っています。取材・調査から浮かび上がった販売終了の決定的な3つの理由を紐解きます。
第1の決定打は、全盛期直後に発生した1998年および1999年のカビ混入による大規模自主回収騒動です。ブームが頂点に達していた1998年10月、製品の一部に白濁やカビのような浮遊物が確認され、JTは約1,900万本という前代未聞の規模での自主回収を実施しました。さらに翌1999年にも同様の異物混入が再発。飲料メーカーにとって最も致命的とされる「食の安全性に対する不信感」が消費者に植え付けられ、驚異的な勢いを誇っていた販売数量は急降下しました。
第2の理由は、後発競合商品の台頭とフレーバーウォーター市場のコモディティ化です。桃の天然水の成功を目の当たりにした飲料各社は、日本コカ・コーラの「い・ろ・は・す」シリーズやサントリーの「天然水」フレーバーシリーズなど、より無糖・微糖で透明感が高く、健康志向にマッチした競合製品を相次いで市場へ投入しました。人工的な甘味が強かった桃の天然水は、時代が求める「ナチュラル志向」のトレンドから徐々に乖離していったのです。
そして第3の決定打となったのが、2015年9月におけるJT(日本たばこ産業)の清涼飲料事業からの全面撤退です。たばこ事業への経営資源集中を図るJTは、自社が抱えていた自動販売機事業(ジャパンビバレッジホールディングス)と主要ブランドをサントリー食品インターナショナルに約1,800億円で売却。「ルーツ(Roots)」や「桃の天然水」の商標権はサントリーへ移管されましたが、すでに強力な天然水ブランドを自社保有していたサントリーにとって、桃の天然水を基幹商品として恒久的に維持する経営的動機は薄く、ブランドの歴史に事実上の終止符が打たれることとなりました。