江戸時代の女性の身なりにおいて、最も厳格に機能していたのが未婚と既婚の境界線です。その識別を決定づけていた代表格が、島田髷(しまだまげ)と丸髷(まるまげ)の構造的差異にほかなりません。
島田髷は、髪を頭頂部で束ねて折り返し、髷の中央を元結(もっとい)で固く縛って前後に突き出させた形状を特徴とします。これは主に十代半ばから二十歳前後の未婚女性、あるいは武家の息女が結うスタイルでした。髷の折り返し方や装飾の違いによって「文金高島田」「結綿(ゆいまわし)」「奴島田」などへ細分化され、未婚女性特有の若々しさと凛とした緊張感を表現していました。
対照的に、結婚した女性が結ったのが丸髷です。丸髷は勝山髷を原型とし、髷の内部に「髷芯(まげしん)」と呼ばれる詰め物を入れ、半円形の丸みを帯びたどっしりとした形状に整えます。未婚時代の突き出した鋭角的なシルエットから一転し、角を取った穏やかな造形へと移行することは、家庭に入り主婦としての落ち着きを備えた証拠と見なされました。当時の記録である喜田川守貞の『守貞謾稿』にも、女性が婚儀を境に島田髷から丸髷へと髪型を改める習俗が克明に描かれています。
江戸時代を通じて考案された髪型は数百種類に及びますが、大別すると階層や年齢に応じて明確な領分が存在していました。まずは主要な様式を一覧で俯瞰してみましょう。
主な江戸時代女性髪型種類一覧としては、以下のような基本型が社会を構成していました。
- 島田髷系:文金高島田(武家息女・格式高い婚礼用)、結綿島田(町家の未婚娘・可憐な町娘スタイル)、奴島田(町家の活発な娘や芸者)。
- 丸髷系:勝山髷から発展した既婚女性専用の髷。年齢を重ねるごとに髷の大きさを小さく平たく結い直すのが嗜み。
- 兵庫髷系:立兵庫、横兵庫。江戸初期に遊女から火がつき、後に花魁(おいらん)の象徴となった華麗なスタイル。
- 勝山髷:吉原の名妓・勝山が考案し、武家奥女中から町屋の妻問わず大流行した円筒状の髷。
- 先笄(さっこう):上方を中心に、婚約が決まった女性や婚礼直前の町娘花嫁髪型特徴として結われた格式ある様式。
- 片外し(かたはずし):武家屋敷の上層奥女中専用。簪を一本引き抜くと髷がほどける構造を持つ、武家社会の規範を具現化した髪型。