サミット誘致をめぐっては、当初、京都府、横浜市、大阪府、新潟市など国内屈指の知名度を誇る有力自治体が名乗りを上げていました。その中で、人口1万人にも満たない北海道の温泉リゾート地・洞爺湖町が最終選定された背景には、外交戦略と危機管理が複雑に絡み合った「2つの決定打」がありました。
1. 標高625メートルの山頂に立つ「天然の要塞」
メイン会場となったのは、洞爺湖と内浦湾(噴火湾)を一望するポロモイ山の頂にそびえ立つ「ザ・ウィンザーホテル洞爺 リゾート&スパ」です。2001年のイタリア・ジェノバサミットでの大規模反グローバリズム暴動、さらには同年の米同時多発テロ(9.11)以降、主要国首脳会議の会場選定基準は「大都市での開催」から「物理的に隔離されたリゾート地」へと世界的にシフトしていました。
警察庁および治安関係者の証言によると、ザ・ウィンザーホテル洞爺への陸上アクセスルートは実質的に1本のアプローチ道路のみでした。この道路を封鎖・検問するだけで、外部からの不審者やデモ隊の接近を完全に遮断できるという地形的優位性が、警備担当者から圧倒的な支持を集めました。大都市開催では何十万人もの警察官を動員しても市民生活の麻痺やゲリラテロの隙をゼロにできませんが、山頂の単独施設であれば完璧な「セキュリティ・ゾーン」を構築できたのです。
2. 「環境サミット」を演出する象徴的景観
当時の国際社会における最重要アジェンダは地球温暖化対策・気候変動問題でした。議長国・日本が打ち出した「温室効果ガス排出量を2050年までに半減させる」という長期目標(クールアース50)を国際合意へと導くため、原生林とカルデラ湖に囲まれた洞爺湖の大自然は、環境保全を世界へアピールする視覚的舞台装置として完璧な役割を果たしました。