鉄道ファンや旅好きの間で長年議論を呼んできたのが、「駅弁の記念日はいつなのか」という疑問です。実はカレンダー上には7月16日の「駅弁記念日」と、4月10日の「駅弁の日」という2つの記念日が存在します。この重複には、鉄道史における明確な事実関係と業界団体のプロモーション戦略の違いが存在します。
7月16日が「駅弁記念日」と呼ばれる根拠は、1885年(明治18年)7月16日にさかのぼります。日本鉄道(現在のJR宇都宮線)の大宮〜宇都宮間が開業したこの日、宇都宮駅の構内営業を委託された旅館「白木屋」が、握り飯2個とたくあん2切れを竹の皮に包んで発売しました。当時の価格は5銭。これが公的な記録として確認できる「日本最初の駅弁販売」と位置づけられています。
一方、一般社団法人日本鉄道構内営業中央会が1993年に制定した4月10日の「駅弁の日」は、行楽シーズンの4月であることと、「弁」の文字が数字の「4」と漢数字の「十」の組み合わせに見えるという商業的アプローチから制定されたものです。つまり、歴史的な発祥事実に基づくのが7月16日、業界の普及促進イベントとして設定されたのが4月10日という明確な棲み分けが存在しています。
なお、駅弁発祥の地をめぐっては諸説あり、1877年の神戸駅説や1883年の上野駅説なども郷土史家の間で語られてきましたが、確実な品目記録と販売価格の一次資料が揃っている点で、宇都宮駅の白木屋説が定説となっています。竹皮に包まれた素朴なおにぎりから始まった日本の駅弁文化は、現在では各地の特産品や最新の加熱容器技術を詰め込んだ世界に誇る食のエンターテインメントへと発展を遂げました。