向田邦子が『思い出トランプ』で第83回直木賞を受賞したのは、事故の前年、1980年のことだ。テレビドラマ『寺内貫太郎一家』や『阿修羅のごとく』などで昭和のお茶の間を席巻したヒットメーカーが、純文学・短編小説の世界でもその才能を開花させた矢先の出来事だった。
当時の執筆スケジュールは多忙を極めていた。締め切りに追われる日々の中で、束の間の休息と新しい創作のアイデアを求めて旅立ったのが、あの台湾旅行だった。手帖に残されたメモや親しい友人へ送った手紙には、旅に対する無邪気な高揚感が綴られている。しかし、その旅路が彼女の人生の最終章となってしまった。