映画『ちはやふる』における上白石萌音の役名は、実家の呉服屋を愛し、かるたを「日本文学の結晶」として崇める大江奏(通称:かなちゃん)です。主人公・綾瀬千早(広瀬すず)が立ち上げた瑞沢高校かるた部に、「試合で必ず袴を着用すること」を条件に入部するという、極めて個性的かつ芯の強いキャラクターでした。
競技かるたという題材は、極限のスピードと肉体的な激しさを伴う「畳の上の格闘技」です。千早や真島太一(野村周平)が競技としての勝利に執着する中、奏だけは「一首一首に込められた千年前の歌人の心」を誰よりも深く理解していました。上白石萌音の演技が観客を惹きつけた最大の理由は、競技の熱狂に流されがちな作品構造の中に、古典の雅(みやび)と情緒を繋ぎ止めるアンカー(錨)の役割を完璧に果たした点にあります。
特に観客の心を掴んだのが、千早に和歌の情景を語って聞かせるシーンです。上白石萌音の明瞭かつ温かみのあるセリフ回しは、現代を生きる若者たちの青春ドラマに、千年前の平安貴族が紡いだ恋の歌を生き生きと蘇らせました。単なる「漫画のキャラクターのモノマネ」ではなく、彼女自身の身体を通して古典への深い敬愛を表現したからこそ、目の肥えた映画ファンや原作読者の心を捉えて離さなかったのです。