テレパシーによって半径200メートル以内の生物の思考(心の声)が強制的に流れ込んでくる斉木楠雄にとって、燃堂力は「地球上で唯一、接近を察知できない危険生物」として位置づけられています。楠雄が燃堂の思考を読み取れない理由、それは能力の不具合や特殊なバリアなどではなく、「何も考えていないから」という身も蓋もない真実に基づきます。
人間は通常、無意識下であっても「次は右へ曲がろう」「お腹が空いた」といった思考の断片を脳内で言語化しています。楠雄はそれを受信することで相手の行動を先読みしていますが、燃堂力は完全なる本能と反射のみで行動しているため、脳内に思考の電波が一切発生しません。楠雄の手記風モノローグでも次のように語られています。
「奴は本物のバカだ。バカすぎて思考が読めない。だからいきなり背後に現れる」
世界を意のままに改変できる超能力者にとって、唯一「不確定要素」として立ちふさがるのが、策谋も悪意も持たない純粋な愚者であるという皮肉。この秀逸なロジックこそが、本作のコメディとしての骨格を強固に支えています。