テレビ番組の中で私生活の匂いを徹底して消し去ることは、タモリという芸人の代名詞でした。明石家さんまが家族の日常をネタにし、ビートたけしが自身の奔放な私生活をアイロニーとして語るのとは対照的に、タモリが画面越しに妻の話題を出すことは極めて稀でした。
この姿勢は決して冷淡さからくるものではなく、徹底した「公私の心理的バウンダリー(境界線)」の構築によるものです。タモリは芸能関係者に対し、「家は完全にリセットする場所。そこに芸人の仕事や世間の評価を持ち込んではいけないし、妻を世間の好奇の目に晒してはいけない」と語っていたとされます。
事実、妻・春子氏もまた、タモリの仕事仲間や業界関係者と過度に群れることを避け、自宅に訪れる親しい後輩芸人(草彅剛など)に対しても、過干渉にならず温かい手料理を差し入れつつ静かに見守るスタンスを一貫して取り続けてきました。この節度ある距離感こそが、業界内の過酷な人間関係に疲弊することなく、タモリが純粋な好奇心だけで芸能活動を続けられた最大の防壁であったと言えます。